| 登場人物は、7歳の主人公と60を越した女性。年は離れていますが、一緒に暮らす、いとこどうしであり、無二の親友でもあります。
毎年11月のある朝がくると、ふたりはクリスマスに向けて30個ものフルーツケーキを焼くための準備にかかります。
彼女は、映画を見たこともないし、レストランで食事したことも、家から5マイル(8キロ強)以上離れたことすらありません。だけど、おいしいフルーツケーキの焼きかたを知っているのです。森の中のきれいなモミノキがある場所、きれいな凧の作りかたも。
ふたりは、お金とも贅沢とも無縁ですが、犬のクイーニーとともに、居心地のいい、ぬくもりのある世界に暮らしています。ほかの人が忘れているような世界の美しさ、人のあたたかさ、生の輝きに気づきながら……。その世界は長くは続かないのですけどね。
大人になるにつれて、さまざまなものを持つようになります。仕事も、お金も、家庭も、出世欲、名誉欲、自己顕示欲…ほかにもいろいろ。その一方で、失っていくものがどれほどあることでしょう。年に一度、この季節が来ると読み返したくなる本です。村上春樹の訳、山本容子の彩色銅版画ともにすばらしい1冊です。 |